"JAZZ CRITIQUE" No.67...20/Apl/1990 Release


COUNT BASIE SPECIAL

結成以来16年間もの長きにわたって、ベイシー・サウンドを追求してきた社会人ビッグバンドがある。 その名は「MONDAYNIGHT JAZZ ORCHESTRA」(東京)。 ベイシーを演ることの難しさ、楽しさを通して実感した"ベイシー音楽"のエッセンスを、同バンド代表の小林正家さんに明かしていただいた。

【MONDAYとベイシーおじさん】

小林正家

我々MONDAYNIGHT JAZZ ORCHESTRAは昭和49年6月に結成された社会人のビッグバンドです。全員が社会人(内女性2名=p.vo)で平均年齢35歳と少しばかり「おじさんバンド」に近づいていきていますが、毎週月曜日の練習(セオリスタジオ)を軸に東京を中心に演奏活動を行っています。そんな我々とベイシーおじさんの付き合い(もちろんベイシー楽団のスコアを通じてのもの)は長く結成当初から16年になろうとしています。それというのも我がバンドの目標が「MONDAYらしいベイシー・サウンドの追求」ということであり、かつメンバー全員がベイシーおじさんを大好きであるということだと思います。皆それぞれ好きなミュージシャンがいますが、いったん楽器を手にして演奏するとなると、やはりベイシー・サウンドに勝るものはないようです。
では、なぜ飽きもせずベイシー・サウンドを追っかけているのでしょうか?
それは我々演奏する立場から考えると、譜面づらは比較的簡単であるが実際に演奏し、いわゆる「あの独特なスイング感・ドライブ感」を表現するには、我々アマチュアにとってかなり奥が深く時間のかかるサウンドであるがためだと思います。またベイシー楽団のもつ豪快さと繊細さ及び力強いリズム感が最大の魅力であり、我々の永遠のアイドルでもあるからでしょう。まさしく我がバンドのライフワークであります。しかしながら、我々はベイシー楽団ではないので彼らとまったく同じように演奏することができないのは残念ながら事実だあります。そこで、無理をして完全なベイシー・コピーを目指すのではなく、我々の感性・表現力を加味したMONDAYらしい音作りを目標としてみました。つまり、ベイシー・サウンドの根底に流れる基本をメンバー全員が等しく理解をして自分達の演奏に組み込んでいくことが大切であり、その積み重ねにより一つの「バンド・カラー」が確立できるのではと考えました。このようなアプローチの結果としてベイシー・サウンドに対する大きな挫折感もなく今日まで楽しく付き合ってこれたのでしょう。
次に実際に米ー・スコアを演奏する時の楽しさや難しさについてですが、我々の経験を基に振り返ってみました。楽しさや楽しさの両横綱は何と言っても「リズム感」と「アンサンブル」でありましょう。また難しさの両横綱もやはり「リズム感」と「アンサンブル」であります。
その昔「ALL AMERICAN RHYTHM SECTION」と言われたベイシーのすばらしいリズム・セクションが刻むビートは今でも我々に心地よい喜びと安らぎを与えてくれる。抽象的ではありますが、ベイシーのリズムは人間の活動のリズムととても合っているからなのでしょう。幸いにして我がリズム・セクションは平均点以上のビートを出してくれるので安心して演奏できますが、時としてセクション・ワークが乱れ不快なリズムになるともう曲は途中で止まってしまいます。リズムをキープの要はやはりギターでありますが、この要職(刻みだけ)を努める人材不足が悩みです。ここをカバーするのがベースになりますが、アップテンポの曲では体力との勝負と言われるくらいのがんばりが要求されます。ベイシーおじさんのピアノもなかなかうまく表現できません。音数が少なく間のとりかたが絶妙でしかもごきげんにスイングしている。またイントロのピアノはその曲のイメージを象徴しているためかどうしてもコピーが多くなってしまい、よけいにピアニスト泣かせでもある。我がピアニストは苦肉の策として左手は膝の上において、かつ全体のアンサンブルをよく聴きながら演奏するよう試みているようです。そしてビッグバンドで欠かせないのがパワフルで繊細なドラムであります。この4リズムががっちり固まった時のビートは正直言ってゾクゾクし気分は最高ですが、なかなか難しいです。
続いてもう一人の横綱「アンサンブル」ですが、1930・40年代はヘッド・アレンジ的な曲が中心であったが、それ以降ハーモニーを重視したアレンジが多くなり「アンサンブル」の醍醐味を味わうことができるようになりました。そこで我々ホーン・セクションの登場ですが、総勢13名という大所帯がまとまるのにはかなりの時間が費やされます。
ベイシーのハーモニーはエリントンのそれと比較してそれほど難解でなく、注意深く演奏していればある程度納得いくサウンドは出せるのですが、フレーズの抑揚の表現を合わせるのに苦労します。つまり各個人のアーティキュレーションを統一させることですが、我がコンマスが最もてこずっている問題です。お手本のレコードを何回聴いて感じを掴んでもいます。
ところでベイシーのアンサンブルを聴くとホーン・セクションがリズムに比べて若干重い(遅れる)と感じられることがよくあります。これはリード・ラッパが意識的に重く吹く場合は別として、本当は楽器の残響音によってそう聞こえているそうです。今まではただ重く「のる」ことでベイシーらしさの一つの表現と解釈していましたが、この基本を理解することによりフレーズが引き締まり妙に遅くならず我がバンドのアンサンブルは数段向上したと感じています。また音の強弱を極端につける手法も忘れることは出来ません。我々アマチュアにとって小さな音でしっかり楽器を鳴らすことは非常に難しいことですが、ベイシー・スコアではここを避けて通ることはできず重要な部分だと思います。このff(フォルテッシモ)とpp(ピアニッシモ)の使い分けができたときの感激はまた格別であります。
ホーン・セクションのアンサンブルは突きつめていくと、やはり13名の要であるリード・トランペットの力量とか裁量いかんにかかっていると思います。他12名が基礎がためをし、その上にリード・トランペットが自由に気ままに吹きまくる・・・・・・このアンサンブルこそ我々が求めているものなのです。練習量が少ないので時間はかかりますが、達成できた時の喜びはまさにプレイヤー冥利につきるとともに満足感で胸が一杯になるものなのです。その上聴いている人に伝わるものがあれば最高です。
以上のような、「リズム感」と「アンサンブル」がうまく重なり合って初めてあのベイシー・サウンドが表現できるのではないでしょうか。
ベイシーおじさんが亡くなって丸五年以上経ちましたが、ベイシーに思い入れの深い我々の心の中ではずっと行き続けているような気がします。そして我々の目指す音楽の柱も永遠に変わることなく「MONDAYらしいベイシー・サウンドの追求」となるでしょう。


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